はじめのひとこと研究室

非常識な僕の書店営業

「浦野さん、注文リストある?
このリストの中から50冊注文するよ」

僕は以前とある出版社に勤めていた時、
お客さんからいただいたひとことです。
これは嬉しかった。

振り返ると、
その書店は東京の郊外にありました。
しかも最寄りの駅からも歩いて20分ほど。

大手チェーンの看板は掲げていますが、
フランチャイズのようでした。

こんなこと言うのは失礼ですが、
お世辞にも売れている書店という感じはしませんでした。
これはあくまで一般的なイメージです。

また書籍というのは、
本の形をした内容のまったく違う商品です。

ジャンルも様々で、
当然売れる本と売れない本というのが、
出版社の中でも出てきます。

書店さんによっては、
お客さんの層も違いますので、
会社としては「これを売らねば!」と分かっていても
勧める前からほぼ売れないだろうという勘は大体当たります。

これが経験の悪いところかもしれませんが、
提案していてもその通りになってしまうのが切ないところでした。

なので、一通りの提案が済むと
相手が望まない限り、することがありません。
(と思っていました)

どんなに勧めてもいらないものはいらない。
これは販売においてどこでもそうだと思います。

唯一の救いは、
その書店の店長さんが気さくで話しやすかった。
という点でしょうか。

郊外のお店でしたので、
他社の営業もなかなか訪問しないのでは?
という立地でした。

たとえ売れなくても何度か足を運び、
 店長との関係構築をはかろうと躍起になっていました。

当時も僕の武器はPOP。
というか商品を
どうにかしてお客さんに気付いていただき、
買っていただく導線づくりが武器でした。

しかし肝心の自社の商品が納入されていません。
自社の商品が納入されなければ、
当然POPも書けません。

自分の武器が活かせないもどかしさもある中、
店長さんとは仲良くなり(売上立たないにも関わらず笑)
時には夕飯をご馳走になってしまうことも
一度や二度ではありませんでした。

郊外なのでその書店から、
店長さんの車に乗り、
中華料理のお店で夕飯を
22時くらいまで食べていた時さえありました。

食事はもちろん黙って食べるわけではありません。
雑談からいろんな話をしてくださいます。

当然仕事の話にもなり、
あの本が売れた。
この本が売れない。
など次第にお店のお困りごとなども
話題にあがるようになりました。

ほとんどのお店の困りごとは、
当然、売上でした。
僕も自社の売上でした笑。

本来なら自社の商品を買っていただき、
その本を売って売上に貢献するのが、
一番だと思うのですが、
冒頭の話のように納入は難しかったので、
お客様の喜びだけにフォーカスするように
考えを改めました。
(もちろん、それまでも同じ思考でしたが)

ここが僕の真骨頂?というか
非常識回路の発動です。
それは、

お客様の店頭の商品を売ろう!
ということでした。

もちろん、自社の商品がほとんどないので、
他社の商品を売ることになります。

どこに自社の商品を売らず、
他社の商品を売る営業がいるでしょうか?

当時そんなことが会社に知れたら
大目玉かもしれませんが、
とにかく、お客様のことだけを考えました。

「店長、どんな商品でも僕、POP書きますよ!」
と提案。
「え?あなたの会社の本じゃなくてもいいの???」と店長。

確かに(調べたわけではないですが)
他社の商品を売ろうとする会社はいないでしょう。
だけど、それくらいしか貢献する術がなかったのです。

「じゃ、浦野さん、机用意するね」
と店長。

ここからが笑ったのですが、
なんと店長、売り場に机を設置して、
ここで書いてくれと、、、

いやー、さすが郊外店?だなぁと
苦笑いしながら、書いて欲しい本をヒアリングし、
もくもくと書き始めました。

お客さんの視線を感じながら笑

それからも訪問しては
他社のPOPを書いて、、、
の繰り返しで、自社の商品は売れないのに
お客さんは大喜び。
という嬉しいんだけども
複雑な心境の中、とある日、冒頭の店長のひとこと。

「浦野さん、注文リストある?
このリストの中から50冊注文するよ」

これは嬉しかったですね。
元々、注文もらえるとも思っていなくて、
心の中では、他社のPOPは、
「POPの練習にでもなればいいや」程度でした。

そんな中、店長からのご注文。
なんだか営業ってこういうこと?
と思える出来事でした。
 
その日は帰宅の足取りも軽く、
嬉しかったのを今でも鮮明に覚えています。

まったく見返りを求めて書いていたわけではなく、
ただ、ただ貢献したい一心でした。
今までのどんな注文より嬉しいご注文でした。

よく老舗のお店かなんかで、
当初は寿司屋だったのに、
お客さんからの評判で卵焼きの専門店になった。
みたいな話ってありますよね。

売り手が販売するものと
お客さんの欲しいものが異なる場合って
ままあったりします。

今扱っている商品だけでなく、
お客さんの視点から見た時、
そこには全く違う商売の機会があるなぁと
感じずにはいられない
僕のエピソードでした。

PS
その後も訪問して、
今度はバックヤードで書かせていただくようになりました笑

urapyon

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